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心の花の歌人 1


佐佐木幸綱
石川不二子
伊藤一彦
久家基美
西田郁人
斎藤佐知子
宇都宮とよ
今泉進
晋樹隆彦
小紋潤
住正代
青木信 久松洋一 大野道夫 谷岡亜紀
黒岩剛仁 俵万智 大口玲子 田中拓也 馬場昭徳
八城スナホ 矢部雅之 横山未来子 足立晶子 伊勢勇
岡本貞子 奥田亡羊 木島泉 駒田晶子 佐佐木朋子
須田昌子 高辻郷子 田中徹尾 藤島秀憲 本田一弘
松井千也子 小川真理子




 佐佐木幸綱(ささき・ゆきつな)


「Yukitsuna.netー佐佐木幸 綱」 参照→こちら

 石川不二子(いしかわ・ふじこ)
1933年11月生まれ 神奈川県出身 岡山県在住

歌集 『円型花壇』     1958 年 「短歌」2月号綴込
   『牧歌』       1976年 不識書院
   『野の繭』      1980年 不識書院
   『鳥池』       1989年 不識書院
   『鳩子』       1989年 不識書院
   『さくら食ふ』    1993年 不識書院
   『水晶花』      1996年 短歌研究社
   『高谷』       2000年 短歌新聞社
   『ゆきあひの空』   2007年 不識書院
   『石川不二子歌集』  1986年 国文社(現代歌人文庫)

代表5首
   のびあがりあかき罌粟咲く、身をせめて切なきことをわれは歌はぬ  『牧歌』 
   きさらぎの闇やはらかに牛眠りその頭上にはにはとり眠る  『野の繭』
   葉ざくらとなりて久しとおもふ木のをりをりこぼす白きはなびら  『鳩子』
   うつとりと桜の花芽啄めるくちばし動き喉(のど)がうごけり  『さくら食ふ』
   ゆきあひの空の白雲 のど太く鳴く鶯もいつか絶えたり  『ゆきあひの空』



 伊藤一彦(いとう・かずひこ)
1943年9月生まれ 宮崎県出身 宮崎県在住

歌集 『瞑鳥記』      1974 年 反措定出版局
   『月語抄』      1977年 国文社
   『火の橘』      1982年 雁書館
   『青の風土記』    1987年 雁書館
   『伊藤一彦歌集』   1989年 砂子屋書房
   『森羅の光』     1991年 雁書
   『海号の歌』     1995年 雁書館
   『伊藤一彦作品集』  1997年 本阿弥書店
   『日の鬼の棲む』   1999年 短歌研究社
   『石榴笑ふな』    2001年 雁書館
   『続・伊藤一彦歌集』 2001年 砂子屋書房
   『新月の蜜』     2004年 雁書館
   『微笑の空』     2007年 角川書店
   『呼吸する土』    2007年 短歌新聞社
   『月の夜声』     2009年 本阿弥書店
   『待ち時間』     2012年 青磁社
歌書 『定型の自画像』   1986年 砂子屋書房
   『若き牧水』     1989年 鉱脈社
   『歌のむこうに』   1990年 本阿弥書店
   『前川佐美雄』    1993年 本阿弥書店
   『空の炎』      1994年 砂子屋書房   
   『矢的の月光』    1997年 鉱脈社
   『夢の階段』     2000年 雁書館
   『歌の自然 人の自然』2003年 雁書館
   『短歌のこころ』   2004年 鉱脈社
   『心を育てる 心が育てる』  2005年 鉱脈社
   『現代歌ことば入門』 2006年 日本放送協会出版
   『牧水の心を旅する』 2008年 角川学芸出版
   『ぼく、牧水!』(対談)2010年 角川書店
   『いざ行かむ、まだ見ぬ山へ』 2010年 鉱脈社
   『月光の涅槃』     2011年 ながらみ書房
   『百歳がうたう 百歳をうたう』 2013年 鉱脈社

自選5首
   おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを  『瞑鳥記』
   動物園に行くたび思い深まれる鶴は怒りているにあらずや  『月語抄』
   月光の訛りて降るとわれいへどだれもだれも信じてくれぬ  『青の風土記』
   母の名は茜、子の名は雲なりき丘をしづかに下る野生馬  『海号の歌』
   梅の林過ぎてあふげば新生児微笑のごとき春の空あり  『微笑の空』




 久家基美(くげ・きみ)
1932年10月生まれ 茨城県出身 神奈川県在住

歌集 『二十四気』 1979年 白凰 社
   『野火』   1981年 白凰社
   『再生』   1983年 白凰社

自選5首
   営々と草に微光を撒く風の傷みをも撒き野は半夏生  『二十四気』
   影のみの吾を野末に待ち伏せてまなこ濃くゐむ冬のもののけ
   とどまるは吾と丘のみ昼すぎのゆるき時刻が曇りを運ぶ  『再生』
   わが思惟の極みに青き岬あり 夏幾日かをここに過ごさむ
   父の死後兄の死後野は冥かりき冥さはときに乱れを救ふ




 西田郁人(にしだ・いくと)
1934年8月生まれ 広島県出身 広島県在住

歌集 『漂鳥』 1998年 ながらみ 書房

自選5首
   海に来ても海の匂ひのせぬ浜よああ中立的な思想は非ず  『漂鳥』
   生きの身に虐げられし恨みとぞ幽霊の住む地球は美し
   ひとり酒飲めば手を打つ者はなく木枯らしの音吾が家かこむ
   菜の花の桜の花の匂ふ野を磨かれて走る蒸気機関車
   痩せに痩せされど砦の真ん中に夕日と遊んでゐるソクラテス




 斎藤佐知子(さいとう・さちこ)
1944年6月生まれ 静岡県出身 神奈川県在住

歌集 『風峠』 1994年 本阿弥書 店
   『帰雲』 2011年 ながらみ書房

自選5首     
   傷つきあひ戦げる青葉 円環を閉ぢし形の縄が落ちゐる  『風峠』 
   足して足してマイナスとなる数もあらむたとえば空地の昼顔の花
   如月のかがやく雲が山の上を何になる気もなくてながるる  『帰雲』
   魂が来てゐるやうな月の庭しばいぬ、みけねこ、とほきみどりご
   傾ぎたる頭蓋の水を慎重に水平にせり背筋の冷えて




 宇都宮とよ(うつのみや・とよ)
1930年1月生まれ 秋田県出身 東京都在住

歌集 『地水説』        1989年 雁書館
   『エルキャピタンの雲』 1995年 雁書館

自選5首
   マダム・ボヴァリイの帽子の縁よりたちのぼるかげろう淡し春の十時  『地水説』
   雪の勿来にほそりと立てる一本の松にさえ聞く 人はいずかた 
                              『エルキャピタンの雲』
   はたはたの千の卵の眼が動く北の荒磯に雪ふぶくとき  (歌集未収録)
   ゆらゆらと自転車こぎゆく夕影の左折するまでわたしの娘
   漆黒の天に真っ黄色の月浮かぶモダンアートな旅しめくくる





 今泉進(いまいずみ・すすむ)
1934年9月生まれ 埼玉県出身 東京都在住

歌集 『冬の雷郎』
   『天の狩人』 2003年 ながらみ書房

代表5首
   身を屈め歩みゆくとき雷郎の怒り激しく我に鳴りたり  『冬の雷郎』
   目見(まみ)暗く二つの組織が向き合える寂しさにいて職場と呼べり
   帰るべきところあらぬか暗む瀬に幻のごと鷺一つ立つ  『天の狩人』
   ひと握りひと握りずつ稲を刈るかなしみを刈るごとき父見ゆ
   遥かなるものは美(は)しきと眼鏡をはずして仰ぐ天の狩人





 晋樹隆彦(しんじゅ・たかひこ)
1944年5月生まれ 千葉県出身 神奈川県在住

歌集 『感傷賦』  1984年 雁書 館
   『天心に帆』 1991年 北羊館
   『秘鑰』   2004年 はる書房
   『浸蝕』   2013年 本阿弥書店

自選5首
   涼をとる輌に五人の乗客をみな殺しにしたくはないか車掌よ  『感傷賦』
   疲れたる吾(あ)を眠らしむあずさ号大月駅を過ぐるころ雨  『天心に帆』
   留学の子の朝は来て夏のはな白き芙蓉の小さく愛(いと)しき  『秘鑰』
   六十数キロの長浜をおもい浸蝕をおもい蓮沼(はすぬま)を過ぎ茫茫たりし                                          『浸蝕』
   千里浜や九十九里浜はた日向灘浸蝕は日々の津波でもある 





 小紋潤(こもん・じゅん)
1947年11月生 長崎県出身 長崎県在住
本名・小島義明 元・雁書館編集者

作品5首[谷岡亜紀選]
   銀河系、その創(はじ)まりを思うときわが十代の孤り晶(すず)しも
   雨に濡れて紫陽花咲(ひら)く稚(わか)ければ藍より青きことを信じる
   天の川かかる夕べの庭に立つこよなく澄めば祈りは叶う
                                     「心の花」1984/6
   いつ来てもライオンバスに乗りたがるライオンバスがそんなに好きか
   夢ひらく水木の花に沿ひてゆくお前のゐない動物園で
                        「短歌往来」1996/7





 住正代(すみ・まさよ)
1935年1月生まれ 岐阜県出身 神奈川県在住

歌集 『赤い蠟燭』 1990年 なが らみ書房
   『夢に殉う』 1996年 ながらみ書房

自選5首
   ゆりかごの歌うたおうか生涯にたった一人のわが子の通夜  『赤い蠟燭』
   さくらんぼ飾れば赤き真日くれて子を待つ不思議な月日すぎゆく
   夢に呼吸(いき)とめて殉(したが)いゆきしかど嫩き木の花 膠(にべ)もなく匂う                               『夢に殉う』
   千余日ひとつの遺影みつづけしわれの無惨を尾長がゆらす
   なみだ涸れはつるしずもり俯きて息子イエスの絶命を抱く(ピエタ)





 青木信(あおき・のぶ)
1936年3月生まれ 新潟県出身 兵庫県在住

歌集 『ペルソナの女』 1990年  本阿弥書店
   『汎神論』    1993年 本阿弥書店
歌書 『エセー恂{邦雄』1993年 書肆季節社

自選五首
   川ひとつ隔てるほどの距離おきて逃亡者なれば先頭を走る  『ペルソナの女』
   本意などいづこにあらむかりそめのこの世あやかし鳥の啼く駅  『汎神論』
   風の音(と)の遠きまほろば褐色の青年の鹿いづこに果てむ
   春はたそがれ逡巡として昏れなづむ在ることの偶然におびゆる
   逃亡者なれば先頭走るなりかつても今もわれは羨(とも)しむ





 久松洋一(ひさまつ・よういち)
1957年10月生まれ 東京都出身 香川県在住

歌集 『ビジネス・ダイアリー』   1994年 雁書館

自選5首
   死という語いともたやすく使われて生保会社の研修終わる
                        『ビジネス・ダイアリー』
   新妻の笑顔に送られ出でくれば中より鍵を掛ける音する
   我が妻が作りし七草粥には今年は三草しか入っておらず
   あちこちを探してトイレのドア越しに上司の指示を仰ぐことあり
   履いてきたスリッパは誰かが履いて行き別のスリッパで我も大浴場を出る




 大野道夫(おおの・みちお)
1956年1月生まれ 神奈川県出身 東京都在住

歌集 『秋階段』             1995年 ながらみ書房
   『冬ビア・ドロローサ』      2000年 砂子屋書房
   『セレクション歌人 大野道夫集』 2004年 邑書林
   『春吾秋蟬』            2005年 雁書館
   『夏母』             2010年 短歌研究社
   『大野道夫歌集』    2013年 砂子屋書房(現代短歌文庫)
 歌書 『短歌の社会学』           1999年 はる書房
   『短歌・俳句の社会学』         2008年 はる書房

自選5首
   10ルピー、5ルピー、2ルピー、1ルピー、目減りしてゆく我の慈悲心(チャリティー)                               『秋階段』
   善悪の手すりに寄りてもの言えば大教室に飛ぶ清き野次
   人を待つ一人一人へ雪は降り池袋とはさびしき袋   『冬ビア・ドロローサ』
   ズックに素足さし入れるよう君はいつも訪ねてくるねやわらかい爪で
                                 『春吾秋蟬』
   びんらでぃん 焦がし反らしてタタミイワシ生きてるどこかで反る びぃんらでぃん                                    『夏母』




 谷岡亜紀(たにおか・あき)
1959年11月生まれ 高知県出身 神奈川県在住

歌集 『臨界』 1993年 雁書館
   『アジア・バザール』 1999年 雁書館
   『闇市』 2006年 雁書館
歌文集『香港 雨の都』 1997年 北冬舎
2in1シリーズ『谷岡亜紀歌集』 2003年 雁書館
セレクション歌人『谷岡亜紀集』 2007年 邑書林
共著 『短歌をつくろう』 1989年 さ・え・ら書房
評論集『〈劇〉的短歌論』 1993年 邑書林
   『佐佐木幸綱』 1996年 ながらみ書房
エッセイ集『歌の旅』 2000年 高知新聞企業
詩集 『鳥人の朝』 2008年 思潮社

自選5首
   天啓を待つにあらねど夕空に仰ぐインドのハレー彗星  『臨界』
   文明がひとつ滅びる物語しつつおまえの翅脱がせゆく
   欲望をごった煮しつつ百年の雨の中なるこの植民地  『香港 雨の都』
   極東の悲しみの雨の黄昏を巡礼めきて影が行き交う
                          『アジア・バザール』
   空き缶を両手に捧げて人は唄う ここであそこで全ての場所で  『闇市』





 黒岩剛仁(くろいわ・たけよし)
1959年8月生まれ 大阪府出身 東京都在住

歌集 『天機』    2002年 な がらみ書房
   『トリアージ』 2006年 ながらみ書房
自選5首
   公園で夜の電話をかけおれば今きわやかに一本の恋     『天機』
   途中では乗り降り許されぬ観覧車 曖昧なるままふたり高みへ
   タッチアップなど分かっているのか神宮で原を観ている君のまばたき
   新幹線の窓より見ゆる道あまたその一つだに我は踏まざる
                             『トリアージ』
   この先十年わがミッションは如何なるや時計の電池替えつつ思う




 俵万智(たわら・まち)
「俵万智のチョコレートBOX」参照 → こちら






 大口玲子(おおぐち・りょうこ)
1969年11月生まれ 東京都出身、宮崎県在住

歌集 『海量(ハイリャン)』  1998年 雁書館
   『東北』       2002年 雁書館
   『ひたかみ』     2005年 雁書館
   『トリサンナイタ』  2012年 角川書店

自選5首
   形容詞過去教へむとルーシーに「さびしかつた」と二度言はせたり  『海量』
   人生に付箋をはさむやうに逢ひまた次に逢ふまでの草の葉   『東北』
   白鳥の飛来地をいくつ隠したる東北のやはらかき肉体は  『ひたかみ』
   大粒のほたるの雨、涙のごとし産まざれば見えぬサマリアの虹
                              『トリサンナイタ』
   指さして「みづ」と言ふ子に「かは」といふ言葉教へてさびしくなりぬ




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 田中拓也(たなか・たくや)
1971年12月生 千葉県出身 茨城県在住

歌集 『夏引』 2000年 ながらみ 書房
   『直道(ひたちみち)』 2004年 本阿弥書店
   『雲鳥』 2011年 ながらみ書房

自選5首
   黄昏の都に向かい一本の矢を放ちたき夕暮れである  『夏引』
   寂しければ鹿島の灘の風浴びておもむろに被る夏の王冠
   新治の野にカッコウの声響き青き衣の夏は来にけり
   しろがねの雨走り去り夕されば筑波は淡き霧纏いたり  『直道』
   雲鳥のはためく夏の岬より八月の空澄み渡りたり  『雲鳥』




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 馬場昭徳(ばば・あきのり)
1948年7月生まれ 長崎県出身 長崎県在住

歌集 『河口まで』    1999年  雁書館
   『大き回廊』    2003年 耕文舎
   『マイルストーン』 2009年 角川書店

自選5首
   重力と時の流れに耐へきたる者らの裔として目覚めたり
   昨日と同じ場所に座りてみたれども昨日と同じ場所などあらず
   忘れ物ばかりしてゐて振返り癖のつきたり 晩年前期
   尾を垂れて夕暮の橋渡りゆく犬よこころは自縄自縛だ
   いくつめのマイルストーンかいくつかは声上げ声を合せ過ぎにき




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 八城スナホ(やしろ・すなお)
1933年3月生まれ 京城出身 神奈川県在住

歌集 『青葉門』 2004年 ながら み書房

自選5首
   我が内に寒く立ちたる一本の木あり窃かに故郷と呼ばん 『青葉門』
   暮れて行く冬空の色鋼(はがね)なすかく澄めとこそ 我が残る日々 
   夕まけてふとも開けたき小窓あり遠山に今日の日は錆びにつつ
   競ふあり躱して水面滑るあり覚満淵の鴨に夏来る
   雪光る上越国境恋ひにつつ柩に入らむ我かと思ふ




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 矢部雅之(やべ・まさゆき)
1966年3月生まれ 神奈川県出身 ニューヨーク在住

歌集 『友達ニ出会フノハ良イ事』  2003年 ながらみ書房

自選5首
   名を呼べばふりむく躯呼ばるるとふことそのものの歓びに満ち
                       『友達ニ出会フノハ良イ事』
   度のあはぬ眼鏡をかけてゐるやうな光のゆらぎ 人とむきあふ
   ゆたかなる唇がいま我にむけうごきそめたり うなづいてみる
   胸の闇をいでたる言葉は午後の陽にとまどひながら今しひとりへ
   霧のごときあはき思ひが湧きやまぬ良いのだらうか思慕と呼んでも




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 横山未来子(よこやま・みきこ)
1972年1月生まれ 東京都出身 東京都在住

歌集 『樹下のひとりの眠りのために』  1998年 短歌研究社
   『水をひらく手』 2003年 短歌研究社
   『セレクション歌人30 横山未来子集』 2005年 邑書林
   『花の線画』 2007年 青磁社
   『金の雨』 2012年 短歌研究社
自選5首
   君が抱(いだ)くかなしみのそのほとりにてわれは真白き根を張りゆかむ                                『樹下の ひとりの眠りのために』
   彫像の背を撫づるごとかなしみの輪郭のみをわれは知りしか  『花の線画』
   白昼に覚めたる眼(まなこ)ひらきつつ舟の骨格を見わたすごとし
   脚垂りて花より蜂の去りしのち日は翳りたりたちまちにして  『金の雨』
   さびしさを歩む間もわが胸にありてひねもす雲を映すみづうみ




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 足立晶子(あだち・あきこ) 
静岡県出身 兵庫県在住

歌集 『白い部分』       1989年 雁書館
   『ゆめのゆめの』    1995年 ながらみ書房 
   『雪耳(シュエアル)』 2001年 雁書館
   『ひよんの実』     2012年 ながらみ書房

自選5首
   月よみにほんのり白き斜面見ゆ人とゐてなほひとを思へり  『白い部分』
   花ふぶくひと日ひとりで何処(いづこ)にも着かぬ電車に揺られてゐたし                                      『ゆめのゆめの』
   旅に見る郵便局の赤マーク日常がうす目してゐるやうな 
                         『雪耳(シュエアル)』
   かはいい声聞けるだらうか「りんご課」の電話番号赤く記さる 
                             『ひよんの実』
   青田 白鷺 青田 白鷺 風の道ふかれふかれて青田 白鷺  




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 伊勢勇(いせ・いさむ)
1939年1月生まれ 神奈川県出身 東京都在住

合同歌集 『男魂歌』  1971年  竹柏会

自選5首
   海へ放つ言葉光れりうねりもつ波頭一線に崩れゆく時  『男魂歌』
   雄牛ずっしり陰嚢揺すりゆく時に下北の空雲立ちわたる
   殉国の意志さらさらに無かりせば君にあげよう千代紙の旗
   詩歌ついに青年ひとり救い得ぬ夕べ発ちゆく掌の中の甲虫
   ひたひたと暗殺者来る無花果の花無き季節を悲しむなかれ




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 岡本貞子(おかもと・さだこ)
1933年4月生まれ 京都府出身 宮崎県在住

歌集 『二重星』 1993年 雁書館
   『冬の鳶』 2003年 雁書館

自選5首
   肉眼で見れば瞬くあたたかさ一つ光の二重星はも  『二重星』
   山も星も人間のことも美しき垂り穂揺らしてゐる赤ままも
   草の上に遇はねば思ふこともなし百の雀に百の屍(し)あるを  『冬の鳶』
   ましぐらに樹海へ落つる冬の鳶遠景といふ寂しさ残す
   身のどこか裂かるるほどの緊張を忘れてゐたり鵯(ひよ)に鳴かるる




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 奥田亡羊(おくだ・ぼうよう)
1967年6月生まれ 京都府出身 神奈川県在住

歌集 『亡羊』 2007年 短歌研究 社

自選5首
   宛先も差出人もわからない叫びをひとつ預かっている  『亡羊』
   白き雲ながるる水を跨ぐとき巨人のごとく我は老いたり
   砲弾がはるかな空を過る日のみずうみを脱ぐ蛇の恍惚
   自転車を燃やせば秋の青空にぱーんぱーんと音がするなり
   広き卓(つくえ)にひとり座れば人を無み向こう側にも行きて座らむぞ




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 木島泉(きじま・いずみ)
1932年9月生まれ 岐阜県出身 岐阜県在住

歌集 『風のやまびこ』 2002年  桐葉出版

自選5首
   人の幅だけの細道雪の道猫とわたしが踏んで行く道 (歌集以降)
   水の面に言葉沈めて聞くように雪限りなく透明となる
   芋洗う石臼誰かに持ち去られ清水に残るまあるい凹み
   とびこんで膝に落ちつく黒猫をしばらく抱いて今日の平穏
   百までも生きてみようか背伸びする冬天抜けるほど蒼い




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 駒田晶子(こまだ・あきこ)
1974年5月生まれ 福島県出身 宮城県在住

歌集 『銀河の水』 2008年 なが らみ書房

自選5首
   クロスワードパズル終盤にさしかかり母の鶏冠の赤々と燃ゆ  『銀河の水』
   花見山ゆめのようなる山の名をはべらせてわがみちのくはあり
   靴下をまだ立てぬ足に穿かせやりてふたりで猫のケンカ見に行く
   わらび缶の中のわらびが伸びはじむ世界はおもくなるばかりなり
   ままごとに見えざる人も招かれて見えざるひとつの椀を渡しぬ  





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 佐佐木朋子(ささき・ともこ)
1953年6月 東京都出身 東京都在住

歌集 『パロール』2006年 紅書房
   『授記』  2012年 紅書房

自選5首
   ドイツ語のメニューを開けばきらきらとアスパラガスの輝く季節
   十月の地熱は空に払われてトカゲの脱皮半分終わる  『授記』
   笑いながら追いこしてゆき戻ってくる風はわたしに気づいたようだ
   〈追伸:誕生日を忘れたわけじゃないけど東京にはいません〉 『授記』
   受けついでゆく記憶のその先は読めない歴史年表のうらおもて  『パロール』




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 須田昌子(すだ・まさこ)
1924年6月生まれ 東京都出身 東京都在住

歌集 『木立の奥』 2008年 雁書 館

自選5首
   夕霧が木立の奥へ流れゆき少女が犬を曳きて帰りきぬ  『木立の奥』
   この家の誰が記せる三月の月・水の上の○と△
   向き合ひて坐りをりしに覚えをらず西日暮里に下りて思ふも
   水呑場かぜに若葉の騒めきてちろちろと水は唇を避けたり
   顔上げて聞き返すとき八宝菜の袋茸ひとつ喉をすべりぬ




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 高辻郷子(たかつじ・きょうし)
1937年5月生まれ 北海道出身 北海道在住

歌集 『農の座標』 1992年 なが らみ書房
   『農の一樹』 1997年 雁書館
   『農魂の譜』 2002年 ながらみ書房
   『銀漢を聴く』2009年 ながらみ書房

自選5首
   流氷の見えざる海の荒ぶりに押しあげらるる太陽一つ  『農の座標』
   氷泥をだぶんだぶんと打ち上げて結氷を告ぐる海の肉体  『農の一樹』
   北こそは夢とうつつの交差点ひとつらの鳥の影が過ぎゆく 『農魂の譜』
   やさしさは空より降り来 喜雨 甘雨 郭公の声 雲雀のことば
   二反歩の野菜畑にも夢がある 南瓜が咲いた 花豆咲いた 
                             『銀漢を聴く』




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 田中徹尾 (たなか・てつお)
1954年8月生まれ 三重県出身 愛知県在住

歌集 『人定』 2003年 ながらみ 書房

自選5首
   今朝の春蛇口ひねれば出る水に礼するごとく顔を洗いぬ  『人定』
   審議会の前夜に想定問を打つパソコン画面だけの明るさ
   送致後の慰労の言葉少なめに上司はわれに鬼ころし注ぐ
   ひざ抱え「ん」の形して小さめの湯船に浸る深夜にわれは 
   東山三十六峰ひとまたぎ伏見稲荷に日照雨(そばえ)降らせて(歌集以降)




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 藤島秀憲(ふじしま・ひでのり)
1960年10月生まれ 埼玉県出身 埼玉県在住

歌集 『二丁目通信』 2009年 な がらみ書房
   『すずめ』   2013年 短歌研究社

自選5首  
   縁側の日差しの中に椎茸と父仰向けに乾きつつあり  『二丁目通信』
   二本立て映画に二回斬られたる浪人は二度「おのれ」と言えり
   もうみんな大人の顔つき体つき冬のすずめに子供はおらず  『すずめ』
   お手玉になった気分でとびはねる雀よ ぼくにも好きな人がいる
   「何色のリボンにしますか」生きていてよかったぼくは尋ねられたり




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 本田一弘(ほんだ・かずひろ)
1969年3月生まれ 福島県出身 福島県在住

歌集 『銀の鶴』 2000年 雁書館
   『眉月集』 2010年 青磁社

自選5首
   エプロンを結ぶ指さき ほそき背にてふてふひとつやさしく生るる 『銀の鶴』
   いちにんを撰びしことはそのほかを撰ばざること春の雪ふる 『眉月集』
   磐梯山(ばんだい)のおほきかひなに抱かれて千年ずつと 種を蒔く ひと 
   生けるものは総て鳴くなり澄みとほる時間の瀧を秋と呼ぶなり
   正月に帰省せざりきふるさとの雪折れの音まぼろしに聞く




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 松井千也子(まつい・ちやこ)
1940年11月生まれ 千葉県出身 静岡県在住

歌集 『ひさかたの』  2002年  ながらみ書房

自選5首
   ペパーミントゼリーのように透明な固まりを持つ ふるさとの駅
                             『ひさかたの』
   無人駅のプラットホームに積もる雪まだ足跡のみあたらぬ昼
   花びらは小人のわらじ風ふけば群れなし坂をかけおりてゆく
   天からの水を濾過する漏斗かもその青涼しブルーヘブンは
   ポケットの底に眠りて冬を越すピーナッツにはなるなわが恋




 小川真理子(おがわ・まりこ)
1970年3月生まれ 東京都出身 千葉県在住

歌集 『母音梯形(トゥラペーズ)』  2002年 河出書房新社

自選5首
   わが部屋に君が来る夏、木々の名を記しただけの地図を渡さう  
                      『母音梯形(トゥラペーズ)』 
   なぜ我は人恋ふるたび春泥のもつとも深きところをめざす
   包帯を隙なく巻いてやりすごすはじめての五月かぜをおそれて  
                            (歌集未収録)
   蔑さるる官能を知らぬ少年が我の化粧(けはひ)の濃きを見咎む
   わたしから言葉脱がせてくれる君 聞き覚えなきこゑを生れしむ






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